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娘と一緒に映画を見直す

 坂本さんは最近、映画「鉄道員」を、6歳になる娘さんと見直したそうです。

「久しぶりに、そして娘とは初めて見返しました。この映画の公開から私も年を重ね、家族持って、娘が生まれているので、全然見方が違うというか、こんなに泣くなんてというくらい号泣しました。映画に6歳の女の子が出てきて、今度小学生なの、という場面。あれっ、娘と一緒だって、とても感慨深かったですね」

映画「鉄道員(ぽっぽや)」(降旗康男監督)は1999年公開。高倉健さんが、無骨だが真っすぐな、定年退職が間近な鉄道員を主演しました。駅長を務める雪深い廃線寸前の終着駅を舞台に、奇跡のような出来事が起こります。

「人が抱く無念さにも反応して、涙が出たし、子どもに許されるという体験も共感してしまって。親になって、子育てする中には、子どもが成長していく喜びだけでなくて、私自身、娘に許される体験も既にあったりするので、胸を打ちました」

「鉄道のある風景」に、坂本さんは心惹かれるといいます。

「電車本体より風景が好き。線路のある風景が好きで、雪の中の真っすぐな線路と、そこに入ってくる鉄道の様子は、萌えポイントではあります」

エンディングで、坂本さんの主題歌「鉄道員(TETSUDOIN)」が流れると、娘さんが気付いたとのことで、「思っていたよりも、さらっと、私の歌が入ってきましたね。自分の歌ではなかなか感動できないのですが、娘が反応して『あっ、これママの歌!』と言ってくれて」

主題歌「鉄道員(TETSUDOIN)」

この歌をレコーディングしたのは、18歳のころ。当時、坂本さんは米国在住の高校生でした。作詞は奥田民生さん、そして作曲は、父の坂本龍一さん。曲を受け取った時、どんな印象だったのでしょうか。

「大変そうだなと思いました。ストリングスのドラマチックな曲を歌うのが初めてで、テンポもゆっくりのバラードなので、歌唱力的に追いつかないというか、その時は苦労しましたね。もっと頭の中ではのびやかに歌いたいのに、声質もテクニックも追いつかず、レコーディングはかなり苦戦しました。こじんまりしたスタジオではなく、ニューヨークの大規模なスタジオで、それもあって緊張しました」と振り返ります。

聞こえてくる主題歌の声は、透明で、無機的で、詠み人知らず的。心が洗われてゆきます。「歌っている時は、冬景色が浮かびます」と言います。

「今思えば、当時の教授(坂本龍一さん)もレコード会社も私に器用に歌いこなすことは求められていなかったのかもしれません。映画を通して見てみると、テクニックではない、素朴でまっすぐな歌がふさわしかったのかな、あの声でよかったのかもしれない、と今ではそう感じます。『これが私の歌』というエゴ的な意識よりも、楽曲の世界に飛び込みたい、という気持ちが当時は大きかったです。」

映画には音楽が不可欠の要素です。「ゴッドファーザー」「太陽がいっぱい」「ニュー・シネマ・パラダイス」と、音楽が名作映画で重要な役割を果たしている例は枚挙にいとまがありません。映画「鉄道員」では、現実と回想シーンの切り替わりなどに音楽がさりげなく入ってきます。「テネシーワルツ」も象徴的に使われています。そしてもちろん、エンディングの主題歌も清浄そのものです。 

「音楽によって、映画のシーンが全くの別物になってしまうこともあり、監督のセンスが問われる部分でもありますよね。過剰に泣けるようなあざとい演出になっていない上品さを、映画『鉄道員』には感じます。」

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シネマ・コンサート ライブの喜び

シネマ・コンサートは、大画面の映像、生の演奏の相乗で、感動の目盛りを押し上げるような上演形式。この名作がシネマ・コンサートになることは、どう感じているのでしょうか。しかも、坂本さんはエンディングで歌います。

「名作ですから、昔見た方も、音楽の臨場感を味わいながら、もう一度見ていただきたいし、また、私のように、公開時とは違うライフステージに立っているという方も多いと思うので、違った刺さり方をするのではないかな、と思います。世代を超えて親子で来ていただいてもうれしいですしね。」 「(『鉄道員』は、)これまで何度かライブで歌っていますが、オーケストラでは初めてです。1つのコンサートの中で、一曲だけ出てくるという演出面でみても、普通のライブとは違うので、肩に力が入ってしまわないよう、なるべくリラックスして歌いたいと思います」

コロナ禍が続く中、坂本さんは、新作アルバム「birds fly」を発表したり、ふと口をついて出たフレーズ「よろこびあうことは間違いじゃない」を楽曲にしたりしてきました。新しい生活様式が浸透していく社会にあって、音楽への向き合い方に変化はあったのでしょうか。 

「顔を合わせずに、音や映像を重ねて1つのものを作る喜びを探求した時期もありましたが、やっぱり、生で会うことにとってかわるものではない、と思います。音楽に関しては、やはりライブです。生身の人間は耳だけで聞いているわけではなくて、肌で、全身の聴覚細胞で聞いている。音圧など肌で感じるものを、先に受け取っている。ライブの体験、生身のコンサートは、何ものにも代えがたいですね。とくにオーケストラですと、体全身で受け取るものがあると思うのです」

その意味で、今回のシネマ・コンサートは、坂本さんにとって音楽的喜びに満ちた機会になりそうです。

「自分の歌が主役という気持ちはないのですが、映像と生の音が内化した芸術世界に、2時間たっぷりと旅をすることができる空間だと思うので、その没入感を楽しんでいただきたいです。映画を見て抱くものは、ひとりひとりそれぞれあると思うのですが、その透き通った気持ちを大事に持って帰っていただけるようなエンディングにしたいです。でも、どうしましょう。自分が泣かないように、当日、私は映画は見ない方がいいかもしれません。見てしまうと、もう歌えなくなるから、見ないことにしますね」

主催: PROMAX/ディスクガレージ/BS朝日/朝日新聞社/TOKYO FM/TBSラジオ
協力: 集英社/東映/「鉄道員(ぽっぽや)」製作委員会

企画・制作